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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)566号 判決 1963年4月10日

大阪府布施市永和二丁目三番地の二三

控訴人

布施税務署長

瀬尾信多郎

右指定代理人検事

松原直幹

杉内信義

法務事務官 大森国章

大蔵事務官 畑中英男

片岡忞

同府同市森河内町四八九番地

被控訴人

平井君枝

右訴訟代理人弁護士

松本健男

石川元也

小林保夫

右当事者間の贈与税決定取消控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の裁判を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は、左に附加するもののほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

(一)  本件土地の売買は、昭和三一年九月一〇日売主杉田昌良の母杉田タネと被控訴人の夫平井房治間において、右房治が代金一九〇、〇〇〇円を支払つて行われたものである。

(二)  本件土地売買の行われた当時の付近の宅地売買の実例についてみると、本件宅地付近において、訴外小野田セメント株式会社が、広範囲にわたつて昭和二九年より同三一年に土地を購入しているが、その購入価格は昭和二九年は坪当り平坪三、〇〇〇円、同三〇年においては坪当り平均三、六〇〇円ないし四、〇〇〇円、同三一年においては坪当り平均四、二〇〇円の割合となつており、したがつて本件土地の売買に際しても、右の売買の実例により土地の価格が左右されることは容易に首肯し得るところである。すなわち、右実例によれば、本件土地の売買(昭和三一年九月一〇日)の前年においてすら、本件土地付近は坪当り三、六〇〇円ないし四、〇〇〇円の価格で売買されていたことが明らかであり、控訴人の算定による贈与当時の本件土地の坪当りの価格三、六〇〇円(算式 225,000円÷62.5坪=3,600円)は、この点から見ても妥当である。

(証拠関係)

控訴代理人は、乙第六の一ないし四、同第七号証、同第八号証の一ないし八、同第九号証の一ないし三を提出し、証人上岡邦夫、同杉田タネの各証言を援用し、被控訴代理人は、右乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

一、控訴人布施税務署長が昭和三三年六月一〇日附をもつて、被控訴人に対しその主張の大阪市城東区永田町一六番地の八、宅地六二坪五合(以下本件宅地という)の贈与価格を金二二五、〇〇〇円、課税価格を金一二五、〇〇〇円、贈与税額を金一八、七五〇円、無申告加算税額を金四、五〇〇円とする課税決定通知をなしたこと、被控訴人のなした再審査請求(受理の日は同年六月二七日)を被控訴人主張のとおり棄却したこと、大阪国税局長が被控訴人のなした審査請求(受理の日は同年七月二九日)を被控訴人主張のとおり棄却したこと、本件宅地の元所有者が訴外杉田昌良であり、右宅地につき同人より被控訴人にその主張のごとき所有権移転登記手続がなされたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、(一) 成立に争のない乙第一号証(一部)、乙第五号証、その方式ならびに趣旨により、いずれも公務員(大阪国税局直税部国税実査官)が職務上作成したものと認められるから、真正な公文書と推定すべき乙第九号証の一、同第九号証の三(一部)に、原審証人大城朝賢、当審証人杉田タネの各証言を総合すると、被控訴人の夫平井房治は、昭和三一年九月一〇日本件宅地を所有者杉田昌良より代金一九〇、〇〇〇円で買受けたことが認められる。

(二) 被控訴人は、本件宅地は右平井房治の妻である被控訴人が前記杉田昌良より金八〇、〇〇〇円で買受けたと主張し、原審証人平井房治、同福山皓三ならびに被控訴本人はいずれも右主張に副う証言ないし供述をなしている。

しかしながら、右被控訴本人の供述(一部)に前掲諸証拠を総合すれば、本件宅地は平井房治が自ら鉄工業を経営する目的のために入手したものであつて、売主との交渉は終始同人が担当し、同人と所有者杉田昌良の代理人杉田タネとの間で不動産仲介業者福山皓三の仲介により前記日時売買契約が締結され、その際作成された不動産売買契約証書(前記乙第一号証)上も、右平井房治が買主と記載されていることが認められる。(なお、右乙第一号証には売買代金八〇、〇〇〇円と記載されているが、当審証人杉田タネの証言によれば、右金額は平井房治の申入れにより税金対策上真実に反する記載をしたことが明らかである。)そして、右契約証書の買主名義を平井房治とした理由につき前掲証人平井房治、福山皓三ならびに被控訴本人の弁疏するところは、事実に反して買主名義をことさら平井房治と表示した事由としてこれを首肯せしめるに足るものではない。

また、本件宅地買受代金を被控訴本人において自ら調達した旨の前掲証人平井房治の証言、被控訴本人の供述は、前掲乙第五号証と比照すると、本件課税決定に対する被控訴人の審査請求の段階で、同人が昭和三三年九月二五日協議官の課査に応答した供述内容と一貫性を欠いている点からみても、これを直ちに措信し難いところである。

さらに、前掲第九号証の三に証人平井房治、同福山皓三の各証言、被控訴本人の供述を総合すれば、本件課税決定後にいたり平井房治は前記仲介業者福山皓三に対し当初作成された前記売買契約書の買主名義を同人より被控訴人名義に書替訂正すべきことを申入れ、被控訴人買主名義とする新証書と作成せしめた事実が明らかであり、以上の諸点を総合して考察すると、前記被控訴人主張に副う前掲証人平井房治、同福山皓三の各証言、被控訴本人の供述部分は、いずれも措信しがたく、他に前記(一)認定を左右するに足る的確な証拠はない。

(三) しかして、官公署作成部分の成立に争がなく、その他の部分は原審証人福山皓三の証言により成立を認めうる甲第一号証に、同証言ならびに前認定のとおり本件宅地を平井房治が買受け、その所有権を取得した事実、および、右宅地につき前記被控訴人名義の所有権移転登記手続が経由された事実(右登記手続受付の日は右甲一号証により昭和三一年九月二二日と認められる)とを合わせ考えると、平井房治は本件宅地を右登記手続の際に、その妻である被控訴人に贈与したものであつて、たゞ、登記手続上中間取得者たる平井房治の登記を省略したにすぎないものと認めることができる。

三  次に、控訴人の本件課税決定の基礎たる本件宅地の評価算定の当否について判断する。贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるべきものである(相続税法第二二条)が、成立に争のない乙第二ないし四号証に原審証人大城朝賢の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は次の方法によつて本件宅地の時価を算定したことが認められる。すなわち、

(一)  富裕税における財産評価の事務取扱については、昭和二六年一月二〇日附国税庁長官・国税局長の通達が発せられ、右通達によれば、宅地の価額は当該宅地賃貸価格(昭和二二年法律第三〇号土地台帳法によつて定められている賃貸価格)に、当該宅地の属する地域に適用さるべき所定の評価倍数(右評価倍数は、状況類似する地域ごとに当該地域内の標準となるべき宅地の価額(一坪当り)の当該宅地の賃貸価格(一坪当り)に対する倍数とする)を乗じて得た額によつて評価するものとされており、この場合、当該宅地に賃貸価格の付されていないものにあつては、当該宅地の現況に即するよう賃貸価格を仮に設定し、これを基として所定の倍数を乗じて算出するものとされている。さらに、昭和三〇年四月三〇日附の国税庁長官・国税局長の通達によつて、右評価要領が示され、これによれば、宅地のうち自用宅地の価額評価に際して適用すべき前記評価倍数は、経済事情、利用状況等の類似する地域ごとに、当該地域の標準となるべき自用宅地の売買実例価額又は精通者意見価額を基として定めるべきものとされた。そして、所轄大阪国税局においては、右通達に従い昭和三一年度分の相続税財産評価基準を設定し、賃貸価格の定めていない土地については近隣類似の宅地の賃貸価格に比準して賃貸価格を定めて、これに所定評価倍数を乗じて評価額を算定することとし、本件宅地所在地たる大阪市城東区内の住宅地帯に適用すべき自用宅地についての前記評価倍数を二、〇〇〇倍と定め、右基準に従つて宅地評価を取扱つていた。

(二)  控訴人は、前記通達ならびにこれに基く大阪国税庁所定の評価基準に則り、賃貸価格の定めていない本件宅地(平井房治が同地上において鉄工業を営むために入手したものであるから自用宅地に該当する)については、付近の類似宅地である同町一七番地一〇九坪九合七勺の賃貸価格坪当り一円八〇銭に比準して、その賃貸価額を一一二円五〇銭と仮設し、これに前記所定の評価倍数二、〇〇〇倍を乗じて得た二二五、〇〇〇円をもつて本件宅地の評価額と定めた。

そして、右宅地評価についての通達ならびにこれに基く大阪国税局の定めた評価基準は、特段の反証の認められない本件では、合理的基礎を有するものと認めるのが相当であるから、右基準に従つて控訴人のなした本件宅地の価額評価は適正妥当なものというべく、さらに、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第六号証の一ないし三によれば、本件宅地付近の同町二丁目ないし三丁目の宅地につき、本件宅地売買成立(昭和三一年九月)の前年昭和三〇年において、坪当り平均三、六〇〇円ないし四、〇〇〇円、昭和三一年においては坪当り平均四、二〇〇円の割合で売買が行われていた事実が窺われるので、右近隣地における売買事例に徴しても、被控訴人のなした前記本件宅地の評価二二五、〇〇〇円、坪当りに換算して、三、六〇〇円は妥当であつて、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

四、そこで、前認定の本件宅地の評価額(課税価格)に基きその税額を算出すれば、本件当時施行中の改正前の相続税法第二一条の四、第二一条の五により、金一八、七五〇円となることが計算上明らかである。

(算式 <省略>)

次に被控訴人は本件贈与税の申告書提出期限たる昭和三二年二月末日(同法第二八条第一項)の経過後現在にいたるまで所轄税務署長に対しその申告をなしていないのであるから、同法第五三条第二項により、被控訴人の負担すべき無申告加算税額は前記贈与税額に百分の二十五の割合を乗じて算出した金額(無申告期間が三月をこえるときに該当)四、六八七円五〇銭となることが計算上明らかであつて、右金額範囲内でなされ控訴人の本件無申告加算税額四、五〇〇円の決定はもとより正当である。

五、以上、判断したところによれば、控訴人が被控訴人に対してなした本件宅地の贈与税の課税決定には被控訴人主張のごとき違法は存しないから、その取消を求める被控訴人の本訴請求は理由がなく、これを認容した原判決は不当にして取消を免れない。

よつて、原判決を取り消し、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 斎藤平伍 判事 中平健吉)

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